エメトセルクの執務室に届いた小包には、宛名が無かった。だが、宛名が無い、というのがもはや宛名のようなものである。そんな雑な荷の送り方をしてくるのも、それを委員会の施設まで難なく通されているのも、すべては送り主がアゼムだからだ。  届くものはたいてい、形は奇妙だが味は保証されている珍品であったり、アーモロートでは見かけない食材などだ。そして、それは同時にアゼムなりの「そろそろ帰る」の合図でもあった。  エメトセルクはさっそく荷を解いてみた。中には手のひらに収まるほどの、小さな平たい缶がいくつか入っている。どれも軽い。振ってみるとシャカシャカと聞き覚えのある音がした。上蓋に手をかけ、ゆっくりと開ける。やはり予想通り、それは茶葉だった。よくよく見えれば、残りの缶の下に紙きれが一枚挟まっている。手にしたそれには、アゼムの筆跡でこう綴られていた。

南の高山で採れる茶葉だよ。 キミ好みの味だったから、先に楽しんでいて。 眉間の皺にも効くってさ!

最後の一言は余計だ! と眉間にぐっと皺を寄せながらも、アゼムがそう言うのであればさっそく試させてもらうとしよう。エメトセルクは立ち上がると、さっそく準備に取り掛かる。温めたポットに先ほどの茶葉を入れ、そこへ湯を注げば開いた茶葉が湯気と共に香を沸き立てる。  それは、カラメルのような独特の甘い香りだった。ポットから白磁のカップへ注ぎ込む。色は濃い飴色だ。エメトセルクの好みはどちらかと言えばこの香りとは逆である。少しばかり疑問を抱きながらも、おそるおそるカップを口元へと運んでみた。  ひときわ強い香りが広がる。しかし、一口すすれば清涼感のある、甘めの香に反して軽やかな後味が通り過ぎて行った。なるほど、たしかに甘さと爽やかさを兼ね備えた逸品であることは間違いない。あっという間に、カップは空になってしまった。エメトルクは二杯目を準備しながら、各々の好みの味を巡らせた。  ヒュトロの分は牛乳を加えてミルクティーに、アゼムの分はストレートのまま砂糖を多めに。あとはこれに合う茶菓子を。甘さを抑えた焼き菓子か……。  エメトルクははっとして顔を上げる。すっかりアゼムのペースに乗せられている自分に、思わず苦笑した。だが、たしかにアゼムが薦めるだけのことはある。そうして、エメトセルクは友の帰りを待つ時間を、この紅茶と共に楽しむことにした。

2022/5/15

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